フランスのマルセイユ国際映画祭においてウェンデリン・ファン・オルデン ボルフ《したたかにたゆたう̶—前奏曲》が受賞
山口情報芸術センター[YCAM] で発表したウェンデリン・ファン・オルデンボルフの映像作品《したたかにたゆたう̶—前奏曲》が、フランスで開催された第36 回マルセイユ国際映画祭のフラッシュコンペティション部門において特別賞(Special Mention)を受賞しました。
本作は、2024年11月から2025 年3 月に開催したオルデンボルフの展覧会「Dance Floor as Study Room ̶ したたかにたゆたう」に際して制作した同名の映像インスタレーションをもとにした作品です。マルセイユ国際映画祭は1990 年から毎年開催される映画祭で、今回は30 ヶ国以上の国から200 作品以上の映画・映像が集まりました。今回本作が受賞したフラッシュコンペティションは短編作品を中心とした部門となります。
したたかにたゆたう̶—前奏曲
青山蜂や木の根ペンション、およびペンションに向かう道で撮影された本作では、人々が踊り、歩き、本を読み、紛争や人生における葛藤の様々な側面について語り合い、それぞれが創造的な活動や各種のイニシアチブを通して、そうした問いと向き合う様子が映し出される。人々が自身の物語や、歴史上の人物、出来事についての考えを語る各場面を通して、互いに異なりながらも、重なり合う複数の課題が浮かび上がる。作中に登場する2つのロケーションは、権威主義の抑圧に対する抗議と抵抗の象徴であり、WAIFUとSLICによって開催されるクィアインクルーシブなレイブパーティーの会場としても使われている。青山蜂は渋谷区の小規模なクラブで、2019年に初めてWAIFUのパーティーを開催した。木の根ペンションは成田空港の滑走路の間に建つ、庭と強固な金属の壁に囲まれた家屋で、三里塚闘争の記憶が今も残る場である。
また、会話のなかで、山口県に縁のあるふたりの重要な女性アーティストの作品を通して、別の領域にも言及している。作家の林芙美子と、先駆的な映画監督でもあった田中絹代は、1950年代頃において、大衆に人気を博した小説や物語、映画のなかで、明確にフェミニスト的で、階級闘争を意識した視点を表現した。
また、ファン・オルデンボルフのこれまでの創作におけるコラボレーションの延長として、過去作《彼女たちの》の登場人物の数名が、本作で新たに加わったキャストと共に出演している。その一人一人が、本作で扱われている運動や課題に対して、個人的な、あるいは活動上の、何かしらのつながりを持っている。本作における彼女たちの存在が、未だ家父長的な価値観に縛られる世界で、クィア・フェミニストな存在と私たちをつないでくれるのだ。

