子供たちを描くリアリズムの視点
開催日時 10月16日(木)12:40〜13:40

西村雄一郎
映画評論家
令和7年度優秀映画鑑賞推進事業
「優秀映画鑑賞推進事業」とは、国立映画アーカイブが優れた日本映画を全国で鑑賞できる機会を提供する取り組みであり、毎年、文化庁と日本各地の文化施設と連携・協力し、アーカイブ所蔵の貴重な35mmフィルムによる巡回上映を実施しています。昭和11年(1936年)から平成23年(2011年)にかけて製作された日本映画の中から、映画史に残る名作や幅広い支持を得た作品が厳選され、全国各地での上映が続けられています。本年度、山口情報芸術センター[YCAM]では日本映画を代表する監督・溝口健二と、近年海外でも再評価が進む清水宏監督の作品を上映いたします。溝口監督の「山椒大夫」や「浪花哀歌」では、不条理な社会の中で生きる女性たちの姿が、溝口監督ならではの鋭い視点で描かれています。清水宏監督の「風の中の子供」「蜂の巣の子供たち」は、戦前から戦後の混乱期を背景に、大人社会に翻弄されながらも懸命に生きる子どもたちの心の動きを繊細に映し出しています。日本映画の魅力と歴史が、今、35mmフィルムによって蘇ります。
作品上映 1
作品上映
/0
清水宏監督は、スター俳優を使ってメロドラマを撮っているよりは、子供や風景を自然のままに写しているほうが良いと考えていた。そんなこともあって、戦後、戦災孤児を引き取って自宅で面倒をみていたが、彼らを登場人物に何か作ろうと思いたち、蜂の巣プロを起こして、本作を製作した。下関に降りたった復員兵は、自分が育った施設「みかへりの塔」へ帰ろうと、広島、神戸と山陽道を歩いて行く。戦禍の傷跡も生々しい街角や路上で、孤児たちや若い娘の引揚者などと出会い、さらに旅を続けていく。全篇ロケーション撮影、出演者もすべて素人といった素朴さのうちに、朴訥としたこの監督特有の味わいと時代を見つめる目がある。「キネマ旬報」ベストテン第4位。
1948年/蜂の巣映画部/白黒/スタンダード/モノラル/84分
脚本・監督:清水宏 撮影:古山三郎 録音:杉山政明、金谷常三郎 音楽:伊藤宣二
出演者:島村俊作、夏木雅子、御庄正一、伊本紀洋史、多島元、久保田晋一郎、岩本豊、千葉義勝
作品上映 2
作品上映
/0
溝口健二監督が、森鴎外の短篇小説を原作に中世荘園の奴隷制度における悲劇をリアリスティックに描き、ヴェネチア国際映画祭で『雨月物語』に続く二年連続の受賞に輝いた力作。原作では、姉安寿と弟厨子王は子どものままであるが、映画では成人してからの二人に重点が置かれるとともに、香川京子、花柳喜章という配役から、安寿を妹、厨子王を兄と設定を変えている。そもそも八尋不二による脚色は原作に忠実なものであったが、溝口監督の意向を受けた依田義賢の手により、奴隷制度や奴隷解放といった社会的側面が強調されるシナリオになったという。とはいうものの、佐渡に売られ盲目となった母玉木を厨子王が捜し求めるという展開は、やはりこの監督特有の「母恋いもの」のモチーフと言えるだろう。宮川一夫の絶妙なカメラによる美しいシーンが随所に見られ、その乾いた画調には鬼気迫るものがある。
1954年/大映(京都)/白黒/スタンダード/モノラル(濃淡型)/124分
原作:森鴎外 脚色:八尋不二、依田義賢 監督:溝口健二 撮影:宮川一夫 照明:岡本健一 録音:大谷巌 音楽:早坂文雄 美術:伊藤熹朔
出演者:田中絹代、花柳喜章、香川京子、清水将夫、進藤英太郎、河野秋武、香川良介、三津田健、浪花千栄子、見明凡太郎、菅井一郎、小園蓉子、毛利菊枝
作品上映 3
作品上映
/0
夏休みを迎えて大はしゃぎの善太・三平兄弟の下に、突然お父さんが工場を辞め、警察に引っ張られるという事件が巻き起こる。児童文学者の坪田譲治が、前年「東京朝日新聞」に連載し好評を博した小説を、清水宏監督が原作に忠実に映画化。爆弾小僧や葉山正雄ら松竹自慢の子役たちと、自宅で寝食を共にしながら撮影に備えた清水は、天然の野生ともいえる子供の存在を見事にカメラに収め、本作により児童映画の第一人者としての地位を築いた。翌年のヴェネチア国際映画祭には、田坂具隆監督の『五人の斥候兵』とともに出品され、ヨーロッパの批評家たちからも絶賛された。なお、坪田による善太・三平の物語は、同じ清水監督によって『子供の四季』(1939)が作られるとともに、戦後も山本嘉次郎監督らによって映画化されている。
1937年 松竹(大船)/白黒/スタンダード/モノラル/86分
原作:坪田譲治 脚本・監督:清水宏 撮影:斎藤正夫 照明:鈴木武雄録音:土橋武夫、 森武憲 音楽 :伊藤宜二 美術:江坂実、 岩井三郎
出演:河村黎吉、吉川満子、葉山正雄、爆弾小僧、坂本武、岡村文子、末松孝行長船タヅコ、石山隆嗣、笠智衆
作品上映 4
作品上映
/0
大阪の製薬会社で電話交換手として働くモダンガールのアヤ子が、家族の経済的苦境を救うため、恋人がいるにもかかわらず、言い寄ってきた社長の囲われものとなるが…。家族や恋人のために自己犠牲を行った末に、その自己犠牲が報われる物語がメロドラマだとすれば、本作におけるアヤ子の自己犠牲的な行動は、最後まで報われることはない。本作の見所は、男たちの欲望と卑劣さと弱さの餌食になって転落していくアヤ子の姿を、徹底的に冷ややかな視線で捉えた溝口健二の演出にあるだろう。1930年に映画女優としてデビューした山田五十鈴は、本作で厳しい溝口の演技要求に応えて大女優へと飛躍し、同じ年に再びコンビを組んだ『祇園の姉妹』と合わせて、二人の代表作とした。「キネマ旬報」 ベストテン第3位。
1936年/第一映画/白黒/スタンダード/モノラル(濃淡型)/72分
原作:溝口健二 脚色:依田義賢 監督:溝口健二 撮影:三木稔 照明:堀越田鶴郎 録音:加瀨久、水口保美 美術:久光五郎、木川義人、岸中勇次郎
出演:山田五十鈴、梅村容子、大久保清子、志賀廼家弁慶、進藤英太郎、原健作、志村喬
開催日時 10月16日(木)12:40〜13:40
西村雄一郎
映画評論家
開催日時 10月16日(木)15:30〜16:30
上映期間:2025年10月15日(水)〜18日(土)
日付 | 時間 |
上映作品 イベント |
10月15日(水) | 10:30〜11:42 |
![]() 浪華悲歌 |
10月15日(水) | 12:10〜13:36 |
![]() 風の中の子供 |
10月16日(木) | 10:30〜12:34 |
![]() 山椒大夫 |
10月16日(木) | 12:40〜13:40 |
![]() 子供たちを描くリアリズムの視点 関連イベント |
10月16日(木) | 14:05〜15:29 |
![]() 蜂の巣の子供たち |
10月16日(木) | 15:30〜16:30 |
![]() アフターアワーカフェ 関連イベント |
10月17日(金) | 10:30〜12:34 |
![]() 山椒大夫 |
10月17日(金) | 13:00〜14:12 |
![]() 浪華悲歌 |
10月18日(土) | 10:30〜11:54 |
![]() 蜂の巣の子供たち |
10月18日(土) | 12:20〜13:46 |
![]() 風の中の子供 |
作品が見つかりませんでした。 |
チケットは当日券のみ。館内2階・スタジオC受付にてご購入ください。
特別割引は、シニア(65歳以上)と障がい者および同行の介助者が対象となります。
上映期間 |
2025年10月15日(水)〜18日(土) |
会場 |
スタジオC |
上映作品 | 4作品 |
関連イベント | 2イベント |
チケット情報 | 有料 |