わたしとYCAM
よう分からん……でも
2003年6月18日に開店した居酒屋まる。仕事帰りでもゆっくりと呑むことができ、新鮮なものをリーズナブルに食べることができる場所を提供したいと思い、遅くまで営業しているこの店を始めた。 開店した年のある日の夜のこと、店での仕事の帰りに見えた謎の光……。「あれはいったい何?」と、主人と話しながら帰宅していたが、それはその年の11月にオープンしたYCAMの展示(1)で、なにやら世界中から届いたメッセージを光で表現しているらしいことを知った。実は私は子どもの頃からアートに興味を持っていて、音楽に携わるなど何かとクリエイティブなことに関わってきたのだけども、よう分からん……でも綺麗。よう分からん……でも、面白そう。 こうしてその存在を知ったYCAMだったが、それからしばらくすると、店にスタッフの方が来てくださるようになり、そしてスタッフの方にアーティストなどのゲストの方も伴うようになった。フレンドリーに接してくださるゲストの方が、その世界ではビッグネームだった、ということもしばしば。「女将さん、座布団もう1枚ちょうだい」と言われて、「そこに置いてあるから使っといて」なんて気安く応えたあのひとが、テレビのドキュメンタリー番組で取り挙げられている。そんな出来事を何度も体験した。ある時、店にたった1人で来た外国人のお客さん。習いたての英会話で話しかけてみると、なんとポーランドからはるばる山口に来たのだという。不思議に思って山口を訪れた理由を尋ねてみると、「YCAMに来てみたかったんだ」とのこと。世界中から展覧会や公演を観に人がやって来るほどの場所だとは、施設が出来るまでは全然思ってもみなかった。 やがて、利用者としてYCAMに行ったり、イベントにも関わらせてもらうようにもなった。YCAMは本当に不思議なところだとつくづく実感させられる。世界的なアーティストが来て、展覧会や公演を開いたかと思えば、その一方で学校帰りの子どもたちが普通に遊んでいたりもする。いろんな国の人がいて、いろんな言葉が飛び交っている。爆音で映画を上映(2)してみたり、メディア・テクノロジーを使って運動会(3)をやってみたり、館内に遺伝子を解析する機械や顕微鏡があったり(4)、「コロガル公演シリーズ」なんて、いつも子どもたちから、とてつもない大人気だった。私にとってのYCAMは、驚きが与えられる場所だ。 山口に住んでいる人は、YCAMがあるおかげで、小さい頃から気軽に本物のアートに触れられる。いろんな体験ができて、発想力や感性が養われると思うから、この本を手に取られた方で、行ったことのない方はぜひ行ってみて欲しい。私はこの先もどんな活動があるのだろうかと思うと、楽しみで仕方がないし、これからも積極的に最新のアートに触れていきたいと思う。同じ年に産声を上げた、まるとYCAM。分野は違うかもしれないけど、同級生として、ともに山口を盛りあげていけたらいいなと思っている。
1 ラファエル・ロサノ=ヘメル《アモーダル・サスペンション―飛びかう光のメッセージ》 のこと2 2014年から開催している「YCAM爆音映画祭」のこと3 2015年から開催している「未来の山口の運動会」のこと4 館内に設置されたバイオラボのこと